バイマンスリーワーズ
Bimonthly Words
やってみなはれ
新年あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
昨年は円安が続き、中国やトランプ政権との関係で、
厳しい経営環境でしたがお元気に新年をお迎えでしょうか。
今年は人口減少を背景に、AIを活用した効率化が急速に進み、
中小企業の経営者にとっては目まぐるしい変化の年になりそうです。
昨年、思い切ったトップ交代を決断したサントリー。
1899年に創業者の鳥井信治郎が「鳥井商店」を起こし、
国産ウイスキー開発に成功した、今でいうベンチャー企業です。
今では非上場の同族企業として、日本最大級にまで発展しました。
創業当初の頃、ウイスキーは長期間の熟成が必要な製品であるため、
製造期間の短いビールとの2本柱で収益バランスを企図しました。
そこで横浜のビール会社を買収しましたが、あえなく失敗。
ビール事業は信治郎の心の中で満たされぬ夢となります。
1950年代のビール業界は大手による寡占状態にあり、
同じような味の商品で個性に乏しいものでした。
そんな業界に新風を吹き込もうとしたのが、
次男の二代目社長、佐治敬三でした。
「やってみなはれ」には仏縁があった
敬三は中学生で母方の佐治家に養子に出ましたが、
実兄吉太郎の急死により信治郎の後継者になりました。
敬三は父の念願であったビール事業に再挑戦しましたが、
赤字続きで、黒字になるまで45年もの歳月を要したのです。
黒字になったのは初代も二代目も没した後でしたが、
なぜ45年にわたり粘り強く続けることができたのか?
松下幸之助は「成功のコツは成功するまでやめないことだ」
と豪語しましたが、現実はそんな簡単なことではありません。
ビール業界に対する反骨精神が強かったのか、
非上場だから赤字でも続けることが許されたのか…。
ウイスキー事業の収益性が高いのであえて赤字部門を作り、
組織の活性化を図ったという後日談もありますが、どうでしょう。
じつは、敬三がビール事業に再挑戦することを決めた際、
自宅で静養中の父・信治郎の枕元で決意を伝えました。
するとしばらく考え込んでいた父は低い声で、
「やってみなはれ」とつぶやいたという。
信治郎は毎朝、般若心経や観音経などの勤行を行うのが日課でしたが、
固有の信仰はなく、神や仏に対し無条件に敬意を払う人物でした。
かつては社内に「神仏課」を置いて全国の神社仏閣の祭事に、
寄付をしたり、自社のウイスキーを奉納していました。
信治郎の「やってみなはれ」には仏縁がありました。
比叡山延暦寺で第二次大戦後に初めて千日回峰行を萬行し、
大阿闍梨となった 叡南祖賢大和尚へ相談に行っていたのです。
そこで頂いた大和尚のお言葉が「やってみなはれ」だったのです。
一人ひとりの当事者意識に火をつける
比叡山延暦寺の根本中堂で今も灯る「不滅の法灯」は、
1200年以上にわたって途絶えずに守られてきました。
菜種油の火を消さないよう、油を注ぎ足して今に至っており、
ことわざの「油断大敵」は不滅の法灯から生まれたとされています。
じつはこの法灯、菜種油を注ぎ足す担当者(役)が決まっておらず、
「足りないな」と気づいた人が継ぎ足すことになっています。
結果、一日のうち何人もの人が法灯を確認することになり、
なんと無駄で、効率の悪い作業になっているのでしょう。
これが今の会社組織なら「なんと非効率な!」となり、
役割を決め、シフトを組んで、マニュアルを作るでしょう。
しかし、延暦寺ではなぜか正反対の方法を続けているわけで、
ここに1200年続いている謎と目には見えない本質があります。
全員がこの法灯を絶やさない「自分事」として捉えることで、
自ら主体的に関わろうとする「当事者意識」が生まれます。
それは単に与えられた役割を果たす「責任感」ではなく、
「やってみなはれ」に共通する信頼感が宿っています。
「やってみなはれ」は“挑戦せよ!”の意味で有名になりましたが、
“信じているよ”という言葉が、その背後から聞こえてきます。
それは必ず成功するという“結果”を信じているのではなく、
粘り強く続けることを信じているよ…という支える心です。
人生を通じて 本当にやりたいことをやればいい
ウイスキーの製造には 樽の中で“熟成”させる期間が大切で、
寝かせているうちに味わいや品質が決まるといわれます。
サントリーは長期間かかる非効率なウイスキー事業と、
短期間でできるビール事業との両輪で基礎を築きました。
さて、あなたがやっている今の仕事や役割は、
真に人生を通じてやりたかったことでしょうか?
今は先人の路線に沿って足場を固める役割であっても、
来る時が来たら、本当にやりたかったことをやればいい。
敬三は「利益三分主義」を掲げ、
事業の利益を社会に還元する理念を実践。
美術館や音楽ホールといった文化事業に力を入れ、
社会貢献活動は企業のイメージ向上にも寄与しました。
利益三分主義には父から受け継いだ「真善美」の精神があります。
「真善美」とはギリシャ哲学を起源としており、
「真」は、本物であること
「善」は、道徳的に正しいこと
「美」は、視覚だけでなく感覚的な美も指しています。
真意はわかりませんが、昨年の思い切ったトップ交代は、
この「真善美」の精神に抵触したのかもしれません。
創業者の精神はこうやって守られていくのです。
いかがでしょう、今年は本当にやりたいことを見つけ、
実行に移すための熟成に入るのもいいでしょう。
かたよらず、こだわらず、とらわれないで、
本当にやりたいことを…やってみなはれ!
