バイマンスリーワーズ
Bimonthly Words
決断の縁
「火・水・空気 のうちで 最も宗教的なものはどれでしょう?」
こう質問されると多くの日本人は「空気」と答えるらしい。
宗教とは何なのか、についてあまり考えていないようで、
日本人の宗教オンチがここにも表れているといいます。
宗教学者の ひろさちや氏 による正解は「火」です。
水と空気はすべての生き物にとって必要なものですが、
「火」は動物のうちで人間しか使用することはありません。
宗教も人間だけのものであり、火が最も宗教的というわけです。
しかし、火は火傷をし、火事を起こす非常に危険なものであり、
宗教も人間にとって よいものというより、本来は怖いものなのです。
ところが、怖いけれども人間にとって必要なものが宗教かも知れません。
ひろさちや氏の 動物+宗教=人間 という方程式が成り立つならば、
人間から宗教を引くとただの動物になってしまうわけですから。
急速に発達した人工知能(生成AI)の能力は、
私たち人間の平均的な能力をはるかに超えました。
AIが脱走して想定外のサイバー攻撃を仕掛けるなど、
人間の力ではコントロールできない状況にもなっています。
AIは 火よりも宗教的で 怖ろしい存在なのかも知れません。
誤った情報から一発の核爆弾が発射され制御不能にでもなれば、
その応酬が何発も行われ人類存亡の危機を招くことになるのです。
日常の経営判断では AIを活用する
一方でAIは、人間の仕事の多くをこなすようになり、
今では私たちにとってなくてはならない存在になりました。
ここで留意したいのは、経営者の意思決定という仕事において、
どこまでAIの能力を活用すればいいのか、という問題です。
経営者の意思決定には日々の経営を行うための「判断の縁(よすが)」と、
長期的な視点に基づく「決断の縁」の二種類があります。
これまで経営者大学などで度々お伝えしておりますが、
もう一度、意思決定のおさらいをしておきましょう。
まず、経営者も人間ですから「好きか嫌いか」「損か得か」という、
人間として当たり前の判断軸を持って日々暮らしています。
好きなものを選んで買い、安くて美味しい店を探すなど、
誰もが自分の判断軸でものごとを決めているわけです。
しかし経営者には、“会社にとって 社会にとって”という、
もう一段高い次元にある「善か悪か」の判断が求められます。
ところがこの判断軸は、人間の心には善と悪とが共存しており、
ましてや 善は必ず善でなく、状況によっては悪にもなるのが難しい。
つまり、「善と悪」は根っこではつながっているために、
二項が対立する善か悪かで判断することはできないのです。
日常はAIもフル活用してベストな判断をすればいいのですが、
最終的には「わりきらない」ことが大局的な判断の縁になります。

次に最も重要な意思決定である「決断の縁」も再考しましょう。
新規事業への進出や巨額の設備投資が必要になった時など、
ひとつ間違うと会社の存続問題にも発展するわけで、
どのような縁を持って意思決定すればいいのか…。
決断の時が迫ってきたら AIを封印する
長期的な決断をする際に、まず始めに行うことは、
「聞く」「調べる」そして「現場に向かう」ことです。
信頼できる人に聞き、さまざまな角度から徹底的に調べ、
現場で見聞きして肌で感じたら、スッキリ決断できるでしょう。
ところが、その道のプロや識者に相談し、
AIなどを駆使して徹底的に調べてみても、
どうしても決断できず迷ってしまうことがあります。
右か左か、決断できない時にはどんな縁が必要なのか?
経営者が決断に迷った時には「やめる」ことも悪くありません。
これまで準備を進めてきた周りからは非難の声が上がるでしょうが、
経営には実行するタイミングが重要で、時期尚早なのかも知れません。
今回は勇気をもって「やめる」という答えも立派な決断なのです。
ところが、経営の現場では簡単にやめることができなくて、
どうしても右か左かに進まねばならない時があります。
ここが経営者にとって最も重要な局面になりますが、
この時の決断の縁が「難しい方を選ぶ」ことです。

なぜ、わざわざ難しい方を選ぶのか?
経営者が楽な方を選ぶと「困難から逃げる自分」に気づきます。
ところが重要な局面で逃げないで、あえて難しい方を選ぶことで、
「困難に立ち向かう自分」を自覚し、経営に対する自信が湧いてきます。
AI利用が当たり前になるとつい楽な方を選ぶクセがついてしまい、
ここで決断という大切な時に自分の意思が楽な方に流れてしまうのです。
苦手な問題や厳しい局面になると逃げてしまう経営者にはならないように、
重要な決断の時が来たら、AIを封印するぐらいの心構えで臨みましょう。
楽が苦を生み 苦が楽を生む
生成AIは目的に向けて論理的で素早い回答が返ってきて、
本当に優秀で便利なツールであると強く感じています。
ところが理路整然としてすごいなぁとは思いますが、
個性的な味わいや、感動する心は湧いてきません。
人生は目標に向けて合理的に無駄なく突き進むのがベストです。
しかし一方で、途中で寄り道をしていろいろな人に出会い、
あっちでガツン、こっちでゴツンとぶつかる人生もいい。
人生の深い喜びは、寄り道の中にたくさんあるのです。
滋賀県にある観音正寺は西国三十三番札所の一つで、
その参道には三十三項目の ことわざが掲げてあります。
そのうちの六番目のことわざにずっと引っかかっています。
~ 楽なことを幸福と思っていては 人生の深い喜びは味わえない ~
文化庁の統計では様々な教団の信者総数は2億1千万人とされ、
総人口より多く、一人で複数の宗教を持っているわけです。
日本人は無宗教で宗教オンチが多いともいわれますが、
むしろ懐の深い宗教好きな国民なのかも知れません。
ハッカー集団によるサイバー攻撃が世界中で発生していますが、
日本の防御システムは脆弱で、絶好のターゲットにされています。
これは組織全体の問題ではなく、私たち一人ひとりが自分の問題とし、
大変ですが、AIオンチと言われないよう心して取り組みたいと思います。
~ 苦の中に楽しみがあり 楽の中に苦しみがある
悩みの中に悟りがあり 悟りの中に悩みがある ~
