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リーダーとしての“器”を磨く②~軸足を持ち、視野を広げる~

公開日:2026年10月08日

前回は、リーダーとしての“器”を磨くための一つ目の「視」として、「視点」について考えた。
同じ出来事であっても、自分、お客様、現場、他部門、取引先など、立場が変われば見え方は変わる。
自分の見え方を絶対化せず、意識的にさまざまな立場へ視点を移してみる。
そうすることで、それまで見えていなかったものが見えてくることがある。

では、多様な視点を持つことができれば、それで十分なのだろうか。
例えば、採用がうまくいかない会社があるとする。

「求人媒体を変えよう」
「採用サイトを充実させよう」
「給与をもっと上げなければならない」

採用というテーマだけを見れば、いずれも大切な検討事項である。
しかし、本当に「採用方法」だけの問題なのだろうか。
そもそも、どのような事業を伸ばしていこうとしているのか。
そのために、どのような人材が必要なのか。
入社した人が力を発揮できる仕事になっているのか。
上司は、部下を育てられているのか。
社員が働き続けたいと思える会社になっているのか。
人を採用するよりも、まず業務そのものを見直す必要はないのか。

見る範囲を広げていくと、「採用」という一つの問題が、事業戦略、仕事の設計、人材育成、組織風土、生産性など、さまざまな領域とつながっていることが見えてくる。

今回は、三つの「視」のうち、二つ目、「視野=どこまで広く見るか」について考えてみたい。

視野を広げるとは、知識を増やすことなのか

「視野が狭い」「もっと視野を広げた方がよい」

そう言われると、多くの本を読む、いろいろな業界について知る、新しい情報に触れる、といったことを思い浮かべるかもしれない。

もちろん、それらも大切である。
しかし、私は、視野を広げることは、単に「知っていることを増やすこと」ではないと思う。
リーダーに必要なのは、知識の量そのものではなく、一つの出来事を、より広い関係の中で捉えることだから。

中小企業では、経営者や経営幹部の守備範囲は広い。

経営理念、経営戦略、マーケティング、営業、オペレーション、人材マネジメント、組織体制、企業文化、採用・定着、人材育成、財務・会計、情報技術、リスク管理、経営管理など、考えなければならない領域は多岐にわたる。

一つの専門領域だけを見ていればよい、ということは少ない。
売上の問題だと思っていたことが、人材の問題につながっている。
人材の問題だと思っていたことが、組織風土の問題に起因していた。
組織の問題だと思っていたことが、実は経営戦略の問題だった。
経営では、このようなことがしばしば起こる。

だからこそ、自分がこれまで経験してきた領域や、得意としてきた領域だけに閉じこもらず、横に領域を広げていくことが必要になる。

横に広げるだけでよいのか

ただし、領域を広げれば広げるほどよい、というわけでもない。
経営も知っている。人事も知っている。マーケティングも知っている。財務も知っている。
いろいろなことを知っていても、それぞれを表面的になぞっているだけでは、単に知識の幅が広がっただけになってしまう。

私は、視野を広げていくためには、横に領域を広げるだけでなく、縦に自分のテーマや強みを深めることも必要だと考えている。

横に広げるのは、さまざまな「領域」である。
一方、縦に深めるのは、自分なりの「テーマ」や「強み」である。
自分は、これまで何を強みとしてきたのか。
何について考え続けているのか。何を深く掘り下げてきたのか。
これから何をさらに磨いていきたいのか。
そうしたものを持ちながら、深く掘り下げていく。 

自分なりの「軸足」を持つ

そこで大切になるのが、自分なりの「軸足」である。
バスケットボールでは、ピボットの際、一方の足を軸足として残しているからこそ、もう一方の足を動かし、さまざまな方向へ身体を向けることができる。

視野も、それと似ているのではないだろうか。
何の軸もなく、興味の赴くままにさまざまなものを追いかけているだけでは、知識は増えても、自分なりの見方はなかなか育たない。

一方、自分なりのテーマや強みという軸足があれば、そこを起点として、異なる領域へ関心を広げていくことができる。
そして興味深いのは、一つの道を深く掘り下げていくと、全く違う領域との間にも、どこか通じるものが見えてくることである。

例えば、一流のスポーツ選手と、一流のアーティスト。
やっていることはまったく違う。
それでも、その道を深く究めた人同士には、どこか通じるものがあるように思う。

一つの道を深く究めていくと、その分野の知識や技術だけでなく、ものの見方や向き合い方そのものが磨かれていくのかもしれない。

これは、仕事についても同じだと思う。

一つのテーマを深く追究しているからこそ、別の領域に触れたときに、

「これは、自分が考えてきたことと同じではないか」
「こちらの考え方を、自分の領域にも生かせるのではないか」

と気づくことがある。そして、そこから新しい発想が生まれることがある。
反対に、自分なりの軸足がなければ、いろいろな領域に触れても、それぞれがバラバラの知識として残り、折角学んでも十分に活かしきれない。

 異なるものの間に、つながりを見つける

軸足を持ちながら視野を広げていくと、それまで別々に見えていたものの間にも、つながりが見えてくることがある。

例えば、人材育成について考えているとする。
人材育成という領域だけを見ていれば、「どのような研修を行うか」「どのように教えるか」という話になりやすい。

しかし、視野を広げれば、

そもそも、どのような人材が必要なのか。
上司は部下とどのように関わっているのか。
評価や配置は育成とつながっているのか。
研修以外にどのような育成の機会を与えているのか。
仕事の任せ方や業務のあり方は適切か。

と、問いが広がっていく。

すると、「研修をどうするか」という問題が、「人が育つ環境をどうつくるか」という問いへと広がっていく。
異なる領域を広く見ながら、それぞれをバラバラに捉えるのではなく、その間にどのような関係があるのかを考える。

視野を広げることは、単に多くのことを知ることではない。
別々に見えていたものを、つなげて考えることでもある。
そこから、それまでにはなかった考え方や、新しい打ち手が生まれることもある。

点だったものが線になり、やがて面としてつながってくる。

そういう意味でも、自分の関心分野とはまったく異なる分野に触れてみることは大切だと思う。
特に、ビジネスに直接結びつくテーマだけでなく、心理学、哲学、東洋思想、物理学、社会学、経済学など、幅広い分野に触れてみる。
そうした学びが、一見関係のないものの間につながりを見つけたり、目の前の問題を違った角度から考えたりする、有用なきっかけとなる。 

軸足を持ち、視野を広げる

今回は、「視野=どこまで広く見るか」についてみてきた。

自分の専門や経験してきた領域から、一歩外へ出てみる。
他の業界や分野にも目を向けてみる。異業種の人と話をしてみる。
同時に、自分なりの軸足を持ち、それを深める。

軸足があるからこそ、広げることができる。
広げるからこそ、軸足もまた深まっていく。

この往復を繰り返すことで、それまで別々に見えていたものがつながり、一つの出来事をより広い関係の中で捉えられるようになる。

こうした積み重ねが、リーダーとしての“器”を磨くことにつながっていくのではないだろうか。
自分の視野は、いつの間にか慣れ親しんだ領域の中だけにとどまっていないだろうか。
そして、自分がこれからさらに深めていきたい「軸足」とは、何だろうか。

次回は、三つ目の「視」である「視座」について考えてみたいと思う。